『吸血鬼ドラキュラ』の冒頭に、こんな料理が登場する。
頃合いの時間にたってきたので、宵のうちにクラウゼンブルグ着。ホテル・ロエールに投宿。夕食とも夜食ともつかぬ食事をとる。トウガラシで調理したチキン料理を食べたが、すこぶる美味なり。ただし、あとでやけにのどが乾いた。(備忘。ミナのために料理方法を聞いておくこと。)給仕人にきくと、「パプリカ・ヘンドル」という、この地方の郷土料理だそうで、カルパチア地方へ行けば、どこでも出る料理のよし。
この「パプリカ・ヘンドル」なる料理のことが長らく頭に残ったままになっていて、その後に色々な料理の本を読んで調べたが、終ぞ分からないままだった。物語の冒頭、夜半のホテルで供され、ランプの灯りに赤く濡れながら照らされる「パプリカ・ヘンドル」を口に入れ、そのよくわからない料理を胃に流し込んでゆくハーカーの姿を想像しながら、まだ見ぬその料理への、得体のしれない興味に惹かれていた。
つい最近になってウィーンの料理をインターネットで眺めていると、 "Paprika Hendl" という名前を不意に見つけた。記事を読んでみると、パプリカをふんだんに使ったハンガリー起源の料理ということが分かった。まさしくこれだ。嬉しくなってレシピを読んだが作り方がさっぱり分からない。何語で書いてあるのかすら分からないので、雰囲気から自分でレシピを作ってみることにした。パプリカを使用するといっても、辛みのあるパプリカ・パウダーは中々国内で見かけない。カイエンペッパー(チリペッパー)も加えてみることにした。
出来上がったものを口にする。濃厚な味わいの中に酸味があり、食べ進めてゆくうちに喉がじんわりと熱くなってくる。ブールの様なパンを使ってソースを掬い取りぱくつくと、美味くて笑いがこみ上げてくる。ただ、確かに、あとでやけにのどが乾いた。ハーカーが日記にミナのための料理方法を記録してくれていなかったおかげで苦労したが、ようやくこの味を知ることができた。この後ハーカーは大変な目に合うのだが、料理法を書いてくれていなかった罪を考えると当然だ。
長年追い求めた味にたどり着くことができて、初めてこの料理を食べた日は、土の中のドラキュラ伯爵みたいにぐっすり眠ることができたのだった。
[レシピ]
材料
- 鶏もも肉:骨付きをまるっと一本(なければ普通の鶏もも肉でも可)
- パプリカパウダー:真っ赤になるくらいたっぷり
- カイエンペッパー:あとでやけにのどが乾くくらい(パプリカパウダーに辛みのあるものを選んでいれば不要)
- トマト缶:1つ
- 生クリーム:100mlくらい
- コンソメスープ:生クリームが100mlなら600mlくらい
- 玉ねぎ:食べたいだけ
- つけあわせ用の野菜:なくても良い(赤パプリカやアスパラガスなど添えると綺麗)
作り方
- 鶏もも肉に下処理をして塩コショウで下味をつける
- 強火で肉に焦げ目がつくまで焼いたら取り出す
- 玉ねぎをみじん切りにして肉を焼いた鍋で炒める
- パプリカパウダー, カイエンペッパー, トマト缶, コンソメスープ, 生クリームを加え煮立ったら肉を入れる (風味付けに赤ワインを入れても良いかもしれない)
- 20~30分ほど弱~中火で煮込む(ソースをゆるめに食べたければ15分くらいでも良い)
- 肉を煮ている間につけあわせ用の野菜をバターソテーしておく
- 皿に盛り完成(色味が物足りなければ皿に出す前にさらにパプリカパウダーを足す)