僕の人生で稀に見る恐い作品に出会ってしまいました。
吉村昭の「羆嵐」。
日本史上最悪の熊害事件と言われる、三毛別羆事件(苫前羆事件)をモチーフとした作品です。
話しの内容ですが、ほぼ実話です。
三毛別羆事件をざっくり説明すると、冬眠に失敗した、いわゆる「穴持たず」と言われる羆が、開拓民の村を襲い六名(七名とする場合もある)の死者と三名の重傷者を出したという凄まじい事件です。
内ニ名は、生きたまま羆に食害されています。
いやー、こんなに恐い小説は久しぶりです。
羆の凶暴さよりも、何十人という男が集まっても一頭の獣に対して無力であり、その無力さが形となって現れるシーンが淡々と描写されているところが、もう。
吉村昭の徹底的な客観視点での記述が、事件の生々しさ、恐ろしさを掻き立てます。
さらに、当時の開拓民の生活や文化に対する描写も非常にリアル。
ラストシーンまで淡々とした描写は続き、ノンフィクション作品の様相を呈しています。
オープニングの開拓民の生活描写、衝撃的な羆による襲撃シーン、何一つできないまま羆に翻弄される村人、老猟師と羆の息詰まる追跡戦。
今まで読んできた本の中で十指に入る傑作です。
この三毛別羆事件、実際の被害者の写真や当時の開拓民の生活を取材し、事件の概要を追った「慟哭の谷」という作品もあります。
先にこちらを読んでおくと、羆嵐の描写がいかにリアルかわかるかと思います。
是非、併せてご一読を。