聖女ジャンヌと悪魔ジル

2010-08-08

Books

聖女ジャンヌと悪魔ジル (白水Uブックス―海外小説の誘惑)

ミシェル・トゥルニエの「聖女ジャンヌと悪魔ジル」を明け方に読了。

小品ではありますが、かなりおもしろい本でした。

舞台は中世ヨーロッパ。百年戦争で劣勢にあったフランスを救った救国の少女、ジャンヌ・ダルク。
彼女が王太子、後のシャルル7世に謁見する所から、物語は始まります。

ジャンヌに聖性を見出し、地獄までも付き従う事を誓うジル・ド・レ。
救国の少女は後にルーアンで処刑裁判を経て火刑に処されます。

ジャンヌという、敬虔に仕えるべき聖なる対象を失ったジル・ド・レが、如何な方法で魂を救済するかがこの話しの重要な点であり、テーマでもあります。

ジル・ド・レといえば、シャルル・ペローの童話「青髭」のモデルにもなった事でも有名であり、ジャンヌを失ってからの放埒ぶり、そして快楽殺人者としての面ばかりが際立って誇張される事が多く感じます。
この辺りの残虐性に関する記述は、澁澤龍彦の「黒魔術の手帖」、コランド・プランシーの「地獄の辞典」に詳しいので、そっち方面に興味のある方はそちらをどうぞ。

トゥルニエは、錬金術師プレラッティの口を借りて語ります。
ジャンヌと同じ聖性に上り詰め、ジャンヌと同じ場所に行くにはジャンヌと同じ道程を辿る必要がある。神と悪魔は酷似する対象であり、悪魔を崇拝し、悪徳を尽くすことでその身は最終的に火によって清められ、天へと上る。
これこそが魂の救済であり、ジル・ド・レを救うただ一つの道である、と。

堕天したサタンは、神に酷似した存在であったと言われています。
この相反しながらも同一性である矛盾した性質が、後に聖女となるジャンヌ、後に悪魔となるジルに重ねて幾度となく出現し、この箇所に非情に感銘を受けました。

思うに、この話のジル・ド・レは、誰よりも敬虔であり、誰よりも純粋であり、誰よりも不敬であり、誰よりも不純である。まさに人間そのものの象徴であるのではないでしょうか。

中世ヨーロッパにおいても類を見ない殺戮を行ったジル・ド・レ。
その最後の言葉は「ジャンヌ!ジャンヌ!ジャンヌ!」。

奇しくもジャンヌがルーアンで火刑に処されたときに叫んだ言葉、「イエスさま!イエスさま!イエスさま!」と酷似したものでした。

ジル・ド・レ関連の書籍を現在集めていますが、最も聖性の高いジル・ド・レを見ることのできる本ですね。

現在同本は三種類出版されていますが、どれも入手困難です。
文庫版が比較的入手しやすいかと思いますので、白水社のUブックス版で探してみるといいかもしれません。

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