今年で近畿圏に住むようになって十年が経ちます。早いもので。最初は文化圏の違いに戸惑うことも多く、自分がどことなく異邦人の様に感じることがしばしばありました。
デビット・ゾペティが書いた「いちげんさん」を当時から折に触れては読み返し、ため息をついていたのを思い出します。
「いちげんさん」は、日本語で書かれた作品です。著者はデビット・ゾペティ。スイス人です。
ここで「外人さんが日本語で綺麗な文章を書くんだなぁ」と読み始めた時点で、読み手は後で罪悪感に苛まれることに。
この作品に登場する主人公(京都で日本文学を学ぶ外国人)は、なんとなく京都にやってきて、なんとなく日本文学を学んでいる人間です。この根無し草のような、浮雲のような、ノーマッドのようなところに共感します。
「美しい京都」ではなく、「京都ではよくある」光景を巧みに織り交ぜながら私小説の香りも漂わせる、不思議な透明感を持った作品です。
中盤の雨のシーンとラストシーンが好きで、今でも時々読み返す一冊。