かのジュール・ミシュレがジャンヌ・ダルクの生涯を書いたこの作品。
作品といっても、この「ジャンヌ・ダルク」はミシュレの大著「フランス史」の中から、ジャンヌダルクについて書いた箇所の抄訳版です。
そういえば、「フランス史」は完訳版が出ていたでしょうか。記憶が定かでないので断言できませんが・・・。
話が逸れましたがこの「ジャンヌ・ダルク」、やはりミシュレらしく、史書にもかかわらず瑞々しい文体で読ませてくれます。
特筆すべきは、やはりルーアンにおける裁判の箇所でしょう。
この辺りの詳細は、この前購入した「ジャンヌダルク処刑裁判」でさらに深い知識を得ることができそうですが、この作品でもルーアンでのかなり詳細な裁判記録を展開しています。
(裁判記録に関する訳は、高山一彦氏が編訳した、件の「ジャンヌダルク処刑裁判」の訳を少なからず引用されているそうです)
ミシュレは歴史家としてどうか?と問われた場合賛否両論あるかと思いますが、先人達の聖性や魂の清らかさを高らかにうたい、暴力、裏切りといった唾棄すべき忌まわしい部分も臆することなく「書き残す」という部分に於いて、僕は尊敬を禁じ得ません。
事実だけを書き残すことも重要ですが、その時代の人間の生き様、つまりは心を書き残していくことも非常に重要だと僕は考えています。
それにしても、窮地のフランスに出現した「ジャンヌ・ダルク」という現象は一体何だったのでしょう。
ミシュレは序文の締めくくりに、フランス人に向けこんな言葉を残しています。
フランス人たちよ、つねに想起しよう。
祖国はひとりの女の心から、彼女のやさしさとその涙から、彼女が我々のために流した血から、我々のうちに生まれたのだということを。
―中央公論社 出版 「ジャンヌ・ダルク (中公文庫)」 P.13より引用
それにしてもこの文庫、原註、訳註、略年譜や随所に挿入される地図や資料等が、ジャンヌ・ダルクの生きた中世ヨーロッパの時代に関する知識を十二分に補填して余りある量。
圧倒されます。
目の届くところに置き続けたい、推薦本です。