天使 (安部公房)

新潮 2012年 12月号 [雑誌]


新潮2012年12月号に、安部公房の未発表作品である「天使」が掲載されるとのことで、本屋を何件か回って手に入れて参りました。新潮を買うのは久しぶりです。
安部公房「天使」は、彼が22歳の時に書かれた短編であり、実在が確認されたのは今回が初めてです。これはびっくり。

本作は安部公房デビュー前の作品ということでしたが、後の作品に見られるような作風の骨子は既にあったということがよく分かりました。

ストーリーは、精神病院に入院(隔離に近い状態だと思われます)している主人公「私」が、病院を抜け出し、自身も天使となって天使の国をさまよい歩く、といったものです。
狂人が残した手記を読むような感覚。実際に物語の構成としても「書き述す」 行動を主人公が取っていることから、これが残された手記である事は明白ですが。

狂いに狂った世界観の中で物語は展開されていきますが、茫洋とした、春の午後にも似たゆったりとした美しさを、この作品からは感じます。暗く冷たい印象はありません。
成程この狂人にとっては、茫漠たる自身の世界から扉を開き天使の国へ入ったわけですから、当然至極といったところなのでしょう。

僕が非常に気に入ったのは、「私」の見る、天使の国に住む「天使」たちは 皆笑い、善意に満ちた存在であることです。日々を退屈に過ごす人間にとっては、この天使の国の描写は、「自分の住んでいる世界は、そう悪いものではない」という印象を持たれるかもしれません。
ある意味で理想郷の様に感じもしますが、「天使」にとっては当たり前の生活なのでしょう。「天使の世界は素晴らしい」とも思えないところが、シニカルで良いです。 

幼い天使に「私」が真っ赤な花を差し出す場面も、非常に印象に残ります。

ねえ、御覧、完結と言う事が結果ではなくて全存在そのものゝ中で進行しつゝある呼名であると言う事が、此の花の出現でどれ丈はっきりする事だろう。
新潮 2012年12月号 15p.

この言葉は、強烈です。是非、台詞の全文を読んで頂きたく。

若干22歳の安部公房が書いた「天使」は、人の営みに対する肯定を見せながらも非常にシュール、且つシニカルな作品でした。後に姿を現すことになる安部公房は、既にこの時、存在していたんですね。

Sho Yanagihara

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