法王暗殺

2011-05-06

Books

―在位33日間。

今日においてはほとんど忘れ去られた、カトリック史上初のダブルネームを冠した教皇ヨハネ・パウロ一世。

彼の生涯と為人、彼がいた当時のカトリック教会の背景と腐敗、その裏に蠢くP2の影、そして「ヨハネ・パウロ一世は暗殺された」という事実に基づいて書かれた作品です。

この世には有象無象の犯罪小説、陰謀論、ミステリー小説がありますが、ここまでワクワクしながら、また、戦慄しながら読んだ本は、そうはありません。
教皇ヨハネ・パウロ一世の開明的な側面を照らし出す、数少ない書籍です。

僕が生まれ、物心ついた頃には既にこの事件は過ぎ去った後で、教皇と言えばヨハネ・パウロ二世であり、それ以前の教皇やカトリックの教義にはあまり関心がありませんでした。
そんな僕が教皇庁に注目したのは、妊娠中絶、安楽死に関する諸問題に関するヨハネ・パウロ二世の回勅「エヴァンジェリウム・ヴィテ」でした。
この回勅でヨハネ・パウロ二世は妊娠中絶、安楽死への非難を示し、ある意味でカトリック信者の困窮を増幅させました。
教皇庁への疑問を僕が持ったのは、この時でした。

その後歴代の教皇の回勅を漁り、パウロ六世の回勅「フマネ・ヴィテ」における受胎調節方法としてのコンドーム、ピルの否定を目にし、このフマネ・ヴィテを順守しようとしていたとされる、ヨハネ・パウロ一世を知りました。

とはいえこの本に巡り会えたのはつい最近、さるお世話になっている古書店での何気ない会話からでした。

内容ですが、法王暗殺に関する箇所は物証に基づいたものではなく、著者も言及しているように状況証拠に依るものです。
しかしこの状況証拠を示すまでの取材の綿密さ、生々しさが凄まじい。
またP2の活動に関しては、ほぼ事実であることがその後の史実に於いて立証されています。
こうなってくると、バチカン内部の腐敗も残念ながら事実だと考えたほうが自然です。

後書きの解説で反証となる状況証拠も示されていますので、そちらも併読されることをお勧めします。

ヨハネ・パウロ二世は教義や教皇庁の体制に関しては保守的な面を持っていました。
近年のコンクラーヴェに於いて教皇となった、ベネディクト十六世はさらに保守的な人物として教皇選出前から有名だった人物です。
この本に書かれている教皇庁の堕落と腐敗は、現在でも続いています。
P2の首魁であるジェッリも、この記事を書いている2011年現在において健在です。
(マーチンクスは既に死没、カルビに関しては自殺ではなく他殺であったと当局により断言されています。)

昨年もバチカン銀行にマネーロンダリングの疑惑が持ち上がりました。

教皇庁の闇は深いのか。真相は藪の中。

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